1980年初頭
これは私が小学校6年生というから、もう40年以上も前の話である。西暦でいうと1981年~1982年、元号でいうと昭和55年~56年になる。チャールズ王太子とダイアナ妃が成婚し、ストーンズのスタート・ミー・アップが流行った頃だ。
流石に半世紀近い昔だから、もう覚えていることも少ない。覚えているのは、小学校の朝のランニングで池の周りの道を走っている時に、犬のうんこを踏んでしまい、その日から1ヵ月くらいあだ名が「ばばお」になったことや、カシオのゲーム電卓「ボクシングゲーム」が流行っていたことくらいだ。
しかし、ひとつ、強烈に覚えていることがある。それは修学旅行の数日前、急にクラスの知らない奴から話しかけられたことだ。同じクラスだが話したことのなかったそいつが、休み時間中、急に近づいてきて私にこう言った。
「お前、修学旅行の前に〇ン毛剃って行く?」普段はあまり取り乱さない私も、初めての会話がいきなりこれだったからか、思わず「いや、俺まだ生えてないねん。」と何故かウソをついてしまった。
名前も知らぬ学友
今でもその顔かたちや背格好は覚えている。顔色が土色で血色が悪いこと、天然パーマでまるでアフロのような髪型なこと、昔はデブだったのだが今は痩せていること(何故かこの情報が私の耳に入っていた。)、そして、名前を知らないこと。今でも名前は分からない。
陰毛の発現は男女問わずタナー段階における第二次性徴を表し、男性の場合平均11才6ヵ月、女性では9才9ヵ月頃に起こるらしい。確かに、小学校6年生だから、ちょうど生えるか生えないか微妙なところである。
そして生えているから誇らしいとかいうよりは、生えているとマセているとか言われて恥ずかしいというのが大勢を占めており、剃るという手段を取ることは十分考えれられるが、仮に自分以外全員生えていて、かつ剃っているのが自分だけだった場合、目も当てられない。
だからこそ私に聞いてきたのだろうが、いつくか疑問があった。まずは「何故、俺に聞くのか。」さほど仲良くもない(というか、しゃべったこともない)私に何故聞くのか。俺ならまず生えていると思ったのか。確かに生えているけど(でも、生えてないって言っちゃったけど)いやいや、ひょっとして全員に聞いているかも…
俺だけか・・・
次に、「〇ン毛より頭のチリチリ気にしたらどうや」今ならルッキズムとやらで私が怒られそうだが、この時は頭のチリチリの方がインパクトがあって、もはや〇ン毛はどうでもええやろ。と思った。上はチリチリ下はツルツルの方がおかしいやろ。
そして、むしろこっちから昔デブやった話を聞きたいと。何で痩せたんか、そしてそれは〇ン毛の剃毛と何かが関係あるんかと…そして、そもそも名前は何なのか。名前も知らんから「〇ン毛男」と呼んでいたが、まるで頭がチリチリなのをからかって「〇ン毛」と呼んでいるようで申し訳ないんだが。
結局、今でも名前は分からないし、私に(ひょっとしてみんなに)聞いていたのかも分からない。そして、俺は勇気を出して剃っていった。うまく剃れずに点々が残り、修学旅行の間で少し伸びてチクチクした。剃っていたのは俺だけだった。
